トナカイ語研究日誌

歌人山田航のブログです。公式サイトはこちら。https://yamadawataru.jimdo.com/

2009-01-01から1年間の記事一覧

現代歌人ファイルその50・熊谷龍子

熊谷龍子は1943年生まれ。宮城学院女子大学日本文学科卒業。1967年「詩歌」に参加し前田透に師事。「詩歌」廃刊後は「青天」を経て「礁」に参加。宮城県気仙沼市在住の歌人である。小学校の国語教科書に「森は海の恋人」という植林活動を行う漁師の話が載っ…

穂村弘百首鑑賞・49

一気筒死んでV7 「海に着くまではなんとかもつ」に10$ 第1歌集「シンジケート」から。「シンジケート」には自動車の歌が多い。そして年を経るに連れて穂村が自動車を詠むことは少なくなっていっている。自動車というアイテムは、高度経済成長期からバブル…

現代歌人ファイルその49・清原日出夫

清原日出夫は1936年生まれで、2004年没。北海道中標津町の農家に生まれ、立命館大学法学部を卒業。「塔」に入会し高安国世に師事した。大学在学中から安保闘争に関わっていた学生運動家であり、学生安保歌人として「東の岸上大作、西の清原日出夫」と呼ばれ…

現代歌人ファイルその48・正岡豊

正岡豊は1962年生まれ。奈良県立北大和高校卒業。1979年頃から短歌をはじめ、1985年前後に「短歌人」に入会。1990年に第1歌集「四月の魚」を刊行したままいったん作歌を中止し、しばらく短歌から離れていた。その間は安井浩司という俳人を知ったのをきっかけ…

穂村弘百首鑑賞・47

「フレミングの左手の法則憶えてる?」「キスする前にまず手を握れ」 第2歌集「ドライドライアイス」から。「フレミングの法則」とは中学校で教わる電動機に関する法則であるが、実際の科学知識なんてもうどうでもいい域に掲出歌は達している。穂村の相聞歌…

現代歌人ファイルその47・仙波龍英

仙波龍英は1952年生まれで、2000年に48歳の若さで病没している。早稲田大学法学部卒業。大学時代に藤原龍一郎の影響で短歌をはじめ、1974年ごろ「短歌人」に入会。1985年に第1歌集「わたしは可愛い三月兎」を刊行した。この歌集の版元は主に詩集を出している…

穂村弘百首鑑賞・46

生まれたてのミルクの膜に祝福の砂糖を 弱い奴は悪い奴 第1歌集「シンジケート」から。「シンジケート」という歌集はアメリカ型大量消費社会の隆盛が背景になっているが、それは苛烈な競争式資本主義に支えられた社会ということでもある。弱肉強食が徹底され…

現代歌人ファイルその46・小川真理子

小川真理子は1970年生まれ。明治大学大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。1994年に「心の花」に入会し、佐佐木幸綱に師事。2001年に「逃げ水のこゑ」で第44回短歌研究新人賞を受賞した。第一歌集「母音梯形(トゥラペーズ)」は2002年に発行。フランス…

穂村弘百首鑑賞・45

ボールボーイの肩を叩いて教えよう自由の女神のスリーサイズを 第1歌集「シンジケート」から。アメリカ型大量消費社会への憧憬が「シンジケート」という歌集の特徴である。その中でも「自由の女神」というのはアメリカを象徴するものとしてはかなり直球の修…

現代歌人ファイルその45・吉村実紀恵

吉村実紀恵は1973年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部外国文学科卒業。1995年より「開放区」に参加し、1997年「ステージ」で第40回短歌研究新人賞次席。1998年に第1歌集「カウントダウン」を発表した。 吉村の短歌のテーマは自分が現代人ではないように思…

現代歌人ファイルその44・加藤英彦

加藤英彦は1954年生まれ。1972年「創作」に、1976年「氷原」に入会。1988年、同人誌「NOA」創刊に参加。1998年に退会した後、2001年より「Es」同人。2007年、第1歌集「スサノオの泣き虫」で第13回日本歌人クラブ新人賞を受賞。歌集あとがきによると20代…

穂村弘百首鑑賞・43

にょにょーんとピザのチーズを曳きながらユダとイエスのくすくす笑い 自選歌集「ラインマーカーズ」から。初出は「かばん」2000年11月号であり、「手紙魔まみ」の時期の作品である。しかし初出の時点ではともに並んでいた「目覚めたら息まっしろで、これはも…

現代歌人ファイルその43・早川志織

早川志織は1963年生まれ。東京農業大学農学部卒業。1983年「詩の雑誌 TILL」に参加。1985年に「短歌人」に入会し、高瀬一誌の薫陶を受けた。1992年、「藤色電波」で第38回角川短歌賞次席。1994年、第1歌集「種の起源」で第38回現代歌人協会賞を受賞した。 早…

穂村弘百首鑑賞・42

立ち読みの『アリス』の版数確かめていたら真夏が笑って死んだ エッセイ「もうおうちへかえりましょう」に収録されている一首。「高い本を買うとき」という古本をめぐるエッセイの末尾に付されている。貴重な古書について書かれた文章に付されるにふさわしい…

短歌往来8月号「ネット社会の新人たち」

短歌往来(ながらみ書房)8月号の特集は「ネット社会の新人たち」。15人が参加し、平均年齢は27.7歳。まさにフレッシュな若手歌人が揃った企画となった。どこがネット社会っぽいのかはいまいちわからないけど。 ゐるだけで絵になるといふ感想をけやきにも友…

現代歌人ファイルその42・森本平

森本平は1964年生まれ。國學院大學文学部文学科卒業、同大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。1978年「醍醐」に入会し、母である槇弥生子に師事。1995年「砦」創刊に参加。2001年「『戦争と虐殺』後の現代短歌」で第19回現代短歌評論賞を受賞した。祖…

穂村弘百首鑑賞・41

私の歩みにつれて少しずつ回転してゆく猫のあたまよ 「短歌研究」2007年8月号から。「私の」の読みは「わたくしの」である。「わたくし」という一人称を穂村が使うようになったのは比較的最近のことで、「手紙魔まみ」よりさらに後のことであろう。「シンジ…

現代歌人ファイルその41・谺佳久

谺佳久は1949年生まれ。早稲田大学卒業。「まひる野」を経て1974年より「心の花」所属。1988年に歌集「疾走歌伝」を刊行している。 「心の花」は『男歌』で有名な佐佐木幸綱が主宰をつとめている。その影響か「心の花」の男性歌人は男らしくハードボイルドな…

穂村弘百首鑑賞・40

ウエディングヴェール剥ぐ朝静電気よ一円硬貨色の空に散れ 第1歌集「シンジケート」から。掲出歌のうまいところはなんといっても「一円硬貨色」という表現であろう。曇り空の鈍色を一円硬貨のアルミニウムの色にたとえる視点は非常にシャープである。そして…

現代歌人ファイルその40・黒瀬珂瀾

黒瀬珂瀾は1977年生まれ。大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。1996年に「中部短歌」に入会し春日井建に師事。2003年、大学院在学中に上梓した第一歌集「黒耀宮」で第11回ながらみ書房出版賞受賞。2006年からは「未来」に所属している。 黒瀬は13歳の時に…

現代歌人ファイルその39・鳥海昭子

鳥海昭子は1929年生まれで、2005年に没している。國學院大學文学部日本文学科卒業。1949年に「アララギ」入会。その後「歌と観照」を経て、1987年「短詩形文学」入会。1985年に第一歌集「花いちもんめ」で第29回現代歌人協会賞を受賞した。 鳥海は郷里山形か…

穂村弘百首鑑賞・38

リニアモーターカーの飛び込み第一号狙ってその朝までは生きろ 新刊エッセイ「整形前夜」収録の一首。たぶん「整形前夜」が初出となると思う。次の歌集に収録されるかどうかはわからない。たえずアップデートされてゆく穂村弘という歌人の、おそらく最新のス…

現代歌人ファイルその38・長岡裕一郎

長岡裕一郎は1954年生まれ。2008年に若くして亡くなっている。東京藝術大学美術学部油絵学科卒業。1973年、浪人生だったときに三一書房主宰の「現代短歌大系」新人賞に「思春期絵画展」で次席に選ばれた。受賞者は石井辰彦であった。長岡はその後、2002年に…

現代歌人ファイルその37・喜多昭夫

喜多昭夫は1963年生まれ。金沢大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科修士課程修了。「中部短歌」にて春日井建に師事。1986年、「母性のありか−女流歌人の現在」 で第4回現代短歌評論賞受賞。現在は金沢の結社「つばさ」の主宰。現在も生まれ故郷金沢に居住…

「早稲田短歌」と「町」

「早稲田短歌」38号および「町」創刊号が届いた。どちらも学生歌人たちによる同人誌である。まさか届けてもらえるとは思っていなかっただけにいささか驚いている。●「早稲田短歌」から しろくま科プランクトンが溺れててシャンパンに浮く彼らの気泡 加藤亜梨…

現代歌人ファイルその36・江戸雪

江戸雪は1965年生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。1995年「塔」入会。同年「ぐらぐら」で第41回角川短歌賞最終候補。1997年に第一歌集「百合オイル」を刊行。2002年、第二歌集「椿夜」で第10回ながらみ現代短歌賞を受賞した。 江戸の歌の特徴は「液体感覚」…

穂村弘百首鑑賞・35

惑星別重力一覧眺めつつ「このごろあなたのゆめばかりみる」 自選歌集「ラインマーカーズ」から。「惑星別重力一覧」とはおそらく造語であろう。漢字の連なる固い字面ながらロマンティックで甘やかな響きのする言葉である。穂村は以前、掲出歌をこの歌と並べ…

現代歌人ファイルその35・新城貞夫

新城貞夫は1938年生まれ。琉球大学法文学部卒業。名前でわかるとおり沖縄出身で、1961年に沖縄青年歌人集団に参加。「野試合」「鳥」に作品を発表したのち、1965年に個人誌「狩」を創刊した。歌集はいずれも入手困難であり、今回は三一書房「現代短歌大系」…

穂村弘百首鑑賞・34

おばあちゃんのバイバイは変よ、可愛いの、「おいでおいで」のようなバイバイ 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。この歌が含まれる一連には「まみ」の家族が出てくる。「まみ」の不思議フィルターを通じているものの、いたって普通の家…

四元康祐「世界中年会議」

四元康祐は1959年大阪府生まれの詩人で、「世界中年会議」は2002年に発行された彼の第二詩集である。製薬会社の駐在員として欧米暮らしが長い人らしい。それまで現代詩において描かれることがほとんどなかった経済、ビジネスを扱った詩を多数発表しているの…