2008-01-01から1年間の記事一覧
笹井宏之は1982年生まれ。2004年にインターネット上で作歌をはじめ、2005年に「数えてゆけば会えます」で第4回歌葉新人賞を受賞。2007年に「未来」に入会し加藤治郎に師事している。第1歌集「ひとさらい」は2008年の1月に発行された。 未来短歌会の加藤治郎…
編んだ服着せられた犬に祝福を 雪の聖夜を転がるふたり 第1歌集「シンジケート」から。もうクリスマスも明けたところであえてこの歌を。この歌は1986年の角川短歌賞次席作品「シンジケート」からあるのだが、初出では「編んだ服着せられた犬に祝福を雪の聖夜…
武井一雄は1949年生まれ。専修大学文学部国文学科卒業。「未来」所属。本業は地方公務員だという。私は「もっと評価されるべき歌人を一人挙げよ」と言われたら、この武井の名前を出したいところである。「未来」というメジャーな結社に所属し、これまでに3冊…
海の生き物って考えてることがわかんないのが多い、蛸ほか 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。この歌を読んで思い出す歌がある人は少なくないだろう。 貴族らは夕日を 火夫はひるがほを 少女はひとで恋へり。海にて 塚本邦雄 塚本のこの…
石川美南は1980年生まれ。東京外国語大学卒業。2002年「祖父の帰宅/父の休暇」で第1回北溟短歌賞次席。16歳の時に作歌をはじめたという早熟の歌人である。早稲田大学の短歌実作ゼミで水原紫苑に学んだことがあるものの、これまで「ラエティティア」「punch-…
信じないことを学んだうすのろが自転車洗う夜の噴水 第2歌集「ドライドライアイス」から。自転車といえば青春のモチーフとして使われることが多いが、そうではないものもたくさんある。掲出歌での自転車はこの「うすのろ」の心の影の象徴である。 「信じない…
渡辺松男は1955年生まれ。東京大学文学部卒業。「かりん」所属。1995年に「睫毛はうごく」で第6回歌壇賞を受賞。1998年に第1歌集「寒気氾濫」で第42回現代歌人協会賞。その他、第8回ながらみ現代短歌賞、第8回寺山修司短歌賞を受賞している。 渡辺の歌はいわ…
高島裕は1967年生まれ。立命館大学文学部哲学科卒業。1996年に「未来」に入会し岡井隆に師事。1998年、「首都赤変」で第41回短歌研究新人賞候補。2000年、第1歌集「旧制度(アンシャン・レジーム)」で第8回ながらみ書房出版賞を受賞。2002年に「未来」を退…
こんなにもふたりで空を見上げてる 生きてることがおいのりになる 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。この歌集は一冊全体でコンセプトを持ったものであるが、掲出歌などはその中でも連作性を超えて際立った絶唱といっていいものだろう。…
大田美和は1963年生まれ。早稲田大学第一文学部英文学科卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。現在は中央大学で教鞭を執る英文学者である。1984年より朝日歌壇に投稿を始め、1989年に「未来」入会。近藤芳美に師事した。第一歌集「きらい」…
海のひかりに船が溶けると喜んでよだれまみれのグレイハウンド 第2歌集「ドライドライアイス」から。穂村弘の歌にはよく犬が登場するが、そのなかには具体的な犬種名が付されているものがある。猫や鳥が詠まれるときはこういうことはない。不思議な特徴であ…
「風通し」が届いた。斉藤斎藤が発行人をつとめる同人誌である。9人の歌人が30首の連作を発表し、ネットの掲示板を使って批評と討論を交わし合うというものである。いずれも明晰な理論を持つ歌人たちであり、とても内容の濃い討論が繰り広げられていた。歌会…
本多稜は1967年生まれ。「短歌人」所属。関西学院大学商学部卒業、ロンドン経済政治学院(LSE)修士課程修了。1998年に「蒼の重力」で第9回歌壇賞を受賞。2004年に第1歌集「蒼の重力」で第48回現代歌人協会賞。2008年には第2歌集「游子」で第13回寺山修司…
「現代歌人ファイル」の第1回でも取り上げている歌人・斉藤斎藤さんを中心に歌誌「風通し」が創刊されるとのことです。これからの歌壇を担っていくだろうすごいメンバーが揃っております。===以下宣伝=== 「風通し」創刊 説明しよう ●「風通し」とは、…
大塚陽子は1930年生まれで、2007年に没している。樺太生まれで、豊原高等女学校卒業。1952年に「新墾」「潮音」に入会。のちに「辛夷」に移籍し、編集人を務めた。野原水嶺に師事。その名が歌壇に現れたのは1954年の第1回短歌研究新人賞五十首詠のときであり…
短歌において「字余り」は大幅な破調でもない限りほとんど意識されることはない。言葉がどうしても字余りを要請する部分があるし、作者の方も半ば無自覚的に字余りを遣っているケースが多い(例外は初句七音くらいだろうか)。しかし「字足らず」は違う。韻…
盛田志保子は1977年生まれで「未来」所属。加藤治郎に師事。早稲田大学第二文学部在学中に、水原紫苑の短歌実作ゼミに参加したことがきっかけで作歌を始め、2000年に『風の庭』で短歌研究社主催「うたう」作品賞を受賞した。この賞には、今橋愛(当時のペン…
今村章生は1981年生まれで「まひる野」所属。アンソロジー「太陽の舟」によると、小説家を目指して文芸系大学に進学したが、気が付くと短歌ゼミに所属していたという。そこで島田修三の指導を受け、作歌をはじめたそうだ。おそらくは島田が教鞭をとっている…
先日はアークの会に参加。「未来」の柳澤美晴さんや「りとむ」の樋口智子さんらを中心に札幌で行われている短歌の勉強会。今回のテーマは村木道彦「天唇」。そこで交わされた議論の内容をざっくりとまとめてみる。 村木道彦は1942年生まれで、本人の筆による…
中澤系は1970年生まれで、「未来」に所属し岡井隆に師事。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。1997年から「未来」に参加し、翌年には「uta 0001.txt」にて未来賞を受賞するという急成長ぶりを見せている。テキストファイルの拡張子が冠されているタイトルから…
奥田亡羊は1967年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、NHKのディレクターとして働いていた時に仕事で佐佐木幸綱と出会ったことがきっかけで「心の花」に入会。2005年に「麦と砲弾」で第48回短歌研究新人賞、2008年に第一歌集「亡羊」で第52回現代歌人協会賞…
眼をとじて耳をふさいで金星がどれだかわかったら舌で指せ 第二歌集「ドライドライアイス」(1993)から。穂村弘の歌にはしばしば、ライトなサディズムを思わせる描写が出てきます。掲出歌のように、女性の視覚と聴覚を遮断して舌で金星を指させようとすると…
歌集というのはひたすら短歌ばかり並んでいるわけですが、全体で起承転結があってひとつのストーリーになっているものも少なくなかったりします。そんな歌集を読むたびに思うのが、映画化してみたらどうなるだろうということ。実際「智恵子抄」とか映像化さ…
横山未来子は1972年生まれで、「心の花」所属。佐佐木幸綱に師事。1996年に「啓かるる夏」で第39回短歌研究新人賞受賞。2008年には歌集「花の線画」で第4回葛原妙子賞を受賞しています。生まれつき体が弱かったため車椅子生活を送っており進学も叶わなかった…
偶像の破壊のあとの空洞がたぶん僕らの偶像だろう 松木秀 この歌はタリバーンによるバーミヤンの仏像破壊をモチーフにした時事詠です。しかし現代日本のやりきれない閉塞感を見事なまでに表現しており、個別的な事件をテーマにしているにもかかわらず普遍的…
松村正直は1970年生まれで「塔」所属、現在同誌の編集長を務めています。1999年に「フリーター的」で第45回角川短歌賞次席。東京大学文学部を卒業後、就職せずにフリーターをしながら全国の都市を転々としていたというちょっと変わった過去を持っています。…
終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて 少なくとも僕は平成最大の歌人だと思っている穂村弘。第一歌集「シンジケート」はもはや古典となった感すらあります。しかし評論で扱われるときはもっぱら「ニューウェーブの旗手」としての側面ば…
おれの中の射殺魔Nは逃げてゆく 街に羞(やさ)しい歌が溢れても 谷岡亜紀 バモイドオキ 僕だけのための神だから僕だけのために僕が名づけた 山田消児 BVDのブリーフつけて血に濡れてかの日の川俣軍司いとほし 島田修三 藤原龍一郎という歌人は固有名詞を「時…
今橋愛は1976年生まれで、京都精華大学を卒業し23歳から作歌をはじめたそうです。2002年に「O脚の膝」で北溟短歌賞を受賞してデビュー。その作品は、伝統的な短歌のスタイルとはかなり趣を異にしています。多行書き、一字空け、行空けなどビジュアル効果を…
狭い短歌界といえど毎年どんどん新人が出てくるわけで、その一方で消えてしまう歌人もいるわけです。まあ基本的に歌を詠み続けていればそうそう消えはしないのですが、短歌そのものから離れてしまうというケースも少なくないのです。寺山修司は途中で短歌か…