2009-01-01から1年間の記事一覧
中川宏子は「未来」所属で、岡井隆に師事。2007年に第1歌集「いまあじゆ」を出している。あとがきによると大学ではドイツ文学を学んでいたという。解説の岡井隆は、「一行の中に「私」を含めて架構する(作中主体を、作者から独立させる)ことが、どこまで可…
「童貞に抜かせちゃ駄目よシャンパンの栓がシャンデリアを撃ち落とす」 第2歌集「ドライドライアイス」から。「聖夜」という一連に含まれた、クリスマスらしい(?)一首。会話体の歌は穂村弘の得意とするところである。この「聖夜」という一連で綴られてい…
小野寺幸男は1938年生まれ。「未来」所属。岩手県に生まれ、高校卒業後上京して肉体労働に従事した後、タクシー運転手を生業としていたという。1980年に第1歌集「樹下仮眠」を刊行している。 まず目を引くのが、タクシー運転手としての職業詠である。きつい…
塘健は1951年生まれ。塘は「つつみ」と読む。別府大学卒業。「玲瓏」に所属し、塚本邦雄に師事。1982年、「一期不会」で第28回角川短歌賞を受賞している。師譲りの主知的かつ耽美的な作風が特徴である。「火冠」「出藍」の二つの歌集がある。 われと言ふわれ…
百億のメタルのバニーいっせいに微笑む夜をひとりの遷都 第1歌集「シンジケート」から。難解というより、ほとんど意味のないシュールな歌である。しかしなぜか一発で覚えてしまうようなインパクトがあり、愛唱している歌のひとつである。初めて短歌雑誌から…
杉原一司は1926年生まれで、1950年に23歳の若さで亡くなっている。現在において杉原の名前は、もっぱら塚本邦雄の親友として知られている。天理語学専門学校(現在の天理大学)フランス語学科を卒業。「日本歌人」にて前川佐美雄に師事。1949年に塚本と同人…
12月5日(土)読売新聞夕刊にインタビュー記事が載りました。地方版によっては掲載されていないようです。
父母の笑みが混ざった微笑みを浮かべて俺ががんばっている 短歌ヴァーサス2号(2003)所収の連作「マヨネーズ眼、これから泳ぎに」から。この歌は珍しく「父母」が登場する。二人だけの世界に閉じ籠もることを志向していた初期とははっきりと変化が生じてい…
鶴田伊津は「短歌人」所属で、2007年に第1歌集「百年の眠り」を刊行している。正確な年齢はわからないが、おそらく30代くらいだろう。「短歌人」に入会したのは1996年で、2003年に短歌人賞を受賞している。歌集からわかるプロフィールは、和歌山は熊野の出身…
知んないよ昼の世界のことなんか、ウサギの寿命の話はやめて! 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。「手紙魔まみ、完璧な心の平和」という章からの一首。「まみ」の揺らぎ続ける心理が一貫して描かれ続けている章である。「ウサギ」は「…
柳宣宏は1953年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学在学中に窪田章一郎に出会い、「まひる野」に入会。現在同誌の編集委員である。若いころから短歌をはじめているベテラン歌人であるが、第1歌集「与楽」を出したのが2003年とかなり遅く世に出た。第2歌…
今日11月25日(水)発売の角川「短歌」12月号に、角川短歌賞受賞後第一作『デバッグ・ジャパン』30首およびエッセイ『歌人には少し縁遠そうなテレビゲーム業界の話』を寄稿しました。ご一読いただけると幸いです。
耳たてる手術を終えし犬のごと歩みかゆかんかぜの六叉路 第1歌集「シンジケート」から。「犬」と題された一連の最後の一首。「耳たてる手術」とは犬の断耳手術のことだろう。シェパードなど一部の犬種は、もともとは垂れ耳であるが外見的な精悍さを醸し出す…
岡崎裕美子は1976年生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。1999年に「未来」に入会し、岡井隆に師事。2002年に「八月の桃」で未来賞次席となり、2005年に第一歌集「発芽」を刊行した。岡崎の歌でまず目を引くのはやはり大胆な性愛の歌であろう。 羽根なんか…
江畑實は1954年生まれ。関西大学社会学部卒業。1978年に「塔」に入会し、1983年に「血統樹林」で第29回角川短歌賞受賞。その後「玲瓏」の創刊に参加し、塚本邦雄に師事。6年間「玲瓏」編集長をつとめた。デビュー作となった「血統樹林」は塚本邦雄の強い影響…
乾燥機のドラムの中に共用のシャツ回る音聞きつつ眠る 第1歌集「シンジケート」から。「シンジケート」には同棲を思わせる歌が散見される。恋愛の社会化=結婚への恐怖を抱いていたのが初期の穂村弘であるが、同棲は許容範囲内だったようだ。この歌の場合「…
奥村晃作は1936年生まれ。東京大学経済学部卒業。大学在学中に「コスモス」に入会し、宮柊二に師事した。現在は「コスモス」の選者である。 奥村は「ただごと歌」の標榜者として知られている。ただごと歌という概念はなかなか複雑なものがあるが、端的に言っ…
ガードレール跨いだままのくちづけは星が瞬くすきをねらって 第2歌集「ドライドライアイス」から。ロマンチックなキスの歌である。この歌のポイントは「ガードレール跨いだまま」という点だ。車道と歩道を分けるところ。つまりそこは二つの世界の境界線であ…
11月7日(土)の朝日新聞夕刊「あるきだす言葉たち」の欄に『さやうなら、そしてハッピーバースデイ』8首を寄稿しました。詩歌界の若手ホープたちが掲載される欄とのことで、名を連ねることができるのはとても光栄です。 お目通しいただけると幸いです。※3…
坂原八津は1958年生まれ。岡山大学薬学部卒業。1980年に「個性」に入会し、加藤克巳に師事。2004年「熾」(代表 沖ななも)創刊に参加。「太陽系の魚」「葉」「はて」の3冊の歌集を刊行している。坂原の作風は平明で破調も少ない口語短歌であるが、加藤克巳…
延期になっていた北海道新聞のエッセイは、本日10月22日(木)夕刊の文化面に掲載されます。 『わが短歌の原風景 札幌』の題で、郊外論的な内容です。 松木秀さんの歌を一首引かせていただいております。お目通しいただけると幸いです。
辻井竜一は1978年生まれ。2007年「かばん」入会。2009年に第1歌集「ゆっくり、ゆっくり、歩いてきたはずだったのにね」を刊行している。なおこの歌集の定価は1000円と破格の安さである。 辻井の短歌の特徴は「過度な定型感」にある。完全な口語短歌であるが…
10月20日(火)発売の「短歌研究」11月号の新人歌人作品特集に「スタートライン」10首を寄稿しました。お目通しいただけたら幸いです。 追記:10月21日(水)に北海道新聞掲載予定だったエッセイは原田康子さんの死去により掲載延期になりました。
岡部桂一郎は1915年生まれ。熊本薬学専門学校(現熊本大学薬学部)卒。1937年に「一路」入会。「工人」「黄」「泥」などの創刊に参加しているが、基本的に結社に依らず活動しており、孤高の歌人と評されることも多い。2003年に「一点鐘」で第37回迢空賞、200…
明け方に雪そっくりな虫が降り誰にも区別がつかないのです 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。なぜこの歌を取り上げたかというと、ついこの前雪虫を見たからである。北海道では冬が近付くとまるで雪のように真っ白な虫(正体はアブラム…
毎日新聞10月11日(日)号の短歌俳句面に作品を寄稿いたしました。「ラベンダー・ガール」5首です。お目通しいただければ幸いです。
冨樫由美子は1976年生まれ。秋田大学教育学部卒業。高校時代に作歌を始め、1995年に「短歌人」入会。1998年に「A Mixed Choir」で第46回短歌人新人賞を受賞。2002年に第一歌集「草の栞」を出している。この歌集には16歳から25歳までの作品が収められていると…
千葉聡は1968年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、國學院大學大学院文学研究科博士課程満期退学。「かばん」所属。1998年に、「フライング」で第41回短歌研究新人賞を受賞した。「微熱体」と「そこにある光と傷と忘れもの」という二冊の歌集を出している。 …
ワイパーをグニュグニュに折り曲げたればグニュグニュのまま動くワイパー 第1歌集「シンジケート」から。角川短歌賞応募作であった「シンジケート」の時点からすでに入っている歌であり、選考座談会でも評価された歌である。歌意は明解であり、ワイパーをグ…
吉沢あけみは1947年生まれ。群馬大学教育学部国語国文学科卒業。「地中海」を経て、「氷原」所属。第1歌集「うさぎにしかなれない」は1974年の刊行である。この少女趣味的でセンチメンタルなタイトルはとても現代的であり、全共闘時代バリバリに出された歌集…