トナカイ語研究日誌

歌人山田航のブログです。公式サイトはこちら。https://yamadawataru.jimdo.com/

読書メモ

管啓次郎「コロンブスの犬」

比較文学者であり詩人でもある管啓次郎(すが・けいじろう)の、随筆家としてのデビュー作である。1989年に弘文堂より単行本化されたが、ここ数年で作家として大きく名を上げ、21年の時を経て河出文庫より文庫化された。 この本はブラジル旅行記である。滞在…

ピーター・レフコート『二遊間の恋』

正式なタイトルは『大リーグ・ドレフュス事件 二遊間の恋』、原題は『The Dreyfus Affair』。邦訳は石田善彦。1992年にランダムハウスより刊行され、1995年に邦訳版が出た。この作品は野球小説であり、ゲイ小説であり、恋愛小説である。そのすべての分野にお…

御中虫『おまへの倫理崩すためなら何度(なんぼ)でも車椅子奪ふぜ』

愛媛県文化振興財団が主催している芝不器男俳句新人賞の第3回受賞者の第1句集である。定価953円と句集にしては安い。非常に個性的な作風の俳人である。 原爆忌楽器を全力で殴る チューリップ体は土に埋まりけり 暗檻ニ鵜ノ首ノビル十一時 女なんだ証拠はない…

アンナ・アフマートワ『夕べ(ヴェーチェル)』

アンナ・アフマートワ(アフマートヴァとも)は1889年生まれで1966年に没したロシアの女性詩人。日本でいえば三木露風や室生犀星とほぼ同時代を生きた。ロシア詩の主流である象徴主義から離れ、アクメイズムと呼ばれる文学運動のさきがけとなった。『夕べ』…

短歌往来8月号「ネット社会の新人たち」

短歌往来(ながらみ書房)8月号の特集は「ネット社会の新人たち」。15人が参加し、平均年齢は27.7歳。まさにフレッシュな若手歌人が揃った企画となった。どこがネット社会っぽいのかはいまいちわからないけど。 ゐるだけで絵になるといふ感想をけやきにも友…

「早稲田短歌」と「町」

「早稲田短歌」38号および「町」創刊号が届いた。どちらも学生歌人たちによる同人誌である。まさか届けてもらえるとは思っていなかっただけにいささか驚いている。●「早稲田短歌」から しろくま科プランクトンが溺れててシャンパンに浮く彼らの気泡 加藤亜梨…

四元康祐「世界中年会議」

四元康祐は1959年大阪府生まれの詩人で、「世界中年会議」は2002年に発行された彼の第二詩集である。製薬会社の駐在員として欧米暮らしが長い人らしい。それまで現代詩において描かれることがほとんどなかった経済、ビジネスを扱った詩を多数発表しているの…

渡辺玄英「けるけるとケータイが鳴く」

無数はどこに行くのか 渡辺玄英 『出口のない海』という映画で 若者たちは爆弾になって消えていった ショーワ二十年の海にはどこにも出口がなくて まばたきして六十年すぎると そこには漂白されたスクリーンがひろがり ぼくらには海がない そーりが靖国を参…

室生犀星詩集

誰かをさがすために 室生犀星 けふもあなたは 何をさがしにとぼとぼ歩いてゐるのです、 まだ逢つたこともない人なんですが その人にもしかしたら けふ逢へるかと尋ねて歩いてゐるのです、 逢つたこともない人を どうしてあなたは尋ね出せるのです、 顔だつて…

三好達治「測量船・艸千里」

春の岬 春の岬旅のをはりの鷗どり 浮きつつ遠くなりにけるかも 三好達治の詩集「測量船・艸千里」を読む。叙情的な作風で有名な詩人である。ボードレールの全訳を手がけるなどフランス詩が専門の人だが、短歌・俳句にもかなり造詣が深い。「日まはり」という…

佐藤文香「海藻標本」

伯父が俳人なので、短詩形そのものに触れた機会としては短歌よりも俳句の方が先だった。今でも俳句を読むのは好きだが、句集の妙な字間の広さにはなかなか慣れない。 「海藻標本」は1985年生まれの若い俳人の第一句集である。タイトルの「海藻標本」とはすな…

池井昌樹詩集

現代詩文庫(思潮社)の「池井昌樹詩集」を読む。池井昌樹は1953年生まれの詩人で、抒情詩の名手である。この人の詩はひらがなを多用した七五調のものが多い。韻律感覚がかなり短歌に近いかもしれない。 ふしぎなかぜが やがてついえるにくたいと やがてつい…