トナカイ語研究日誌

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穂村弘百首鑑賞・38

  リニアモーターカーの飛び込み第一号狙ってその朝までは生きろ

 新刊エッセイ「整形前夜」収録の一首。たぶん「整形前夜」が初出となると思う。次の歌集に収録されるかどうかはわからない。たえずアップデートされてゆく穂村弘という歌人の、おそらく最新のスタイルといえる歌ではないかと思う。
 掲出歌が言わんとしていることは平明である。たとえどん底に這いつくばっていたって、「とにかく今は生きてやる」と強く思っているのだ。決して、リニアモーターカーの飛び込み第一号になって歴史に名を残したいわけではない。そんなものはちっとも本気ではない。とにかく、どんなくだらないことであっても生きる理由が欲しくてたまらない。そんな焦燥感に満ちている歌である。結句が字足らずの六音になってることも、リズムを途絶させて急ブレーキがかかったような効果をあげている。音韻的にも計算されつくした歌である。
 この歌も端的にいえば現代社会の生きづらさを表現した歌である。何かしらの理由づけをしてたえず自分にブレーキをかけ続けていなければ自殺衝動に駆られてしまうのだろうというくらいのギリギリ感にあふれている。これが穂村が見ている世界の、リアルの最前線なのだと思う。この歌の面白いところはやはり「リニアモーターカー」を持ち出してきたところにあるだろう。リニアモーターカーがいつ実用化されるか、遠い未来のような気もするし、実はすぐ最近かもしれない。なんにせよテクロノジー的なロマンのあるものとしてリニアモーターカーのイメージは結晶する。そこに凄絶な飛び込みのイメージを付加することで、もはや人生を諦めたということよりもすさまじい覚悟の持ち主として響いてくるのである。また先端技術の粋たるリニアモーターカーを「ぶつかったら死ねるもの」という皮相なレベルまで引きずりおろしているところも詩の妙味である。