トナカイ語研究日誌

歌人山田航のブログです。公式サイトはこちら。https://yamadawataru.jimdo.com/

2009-01-01から1年間の記事一覧

現代歌人ファイルその34・香川ヒサ

香川ヒサは1947年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部国文科卒業。1970年に「白路」、1984年に「好日」に入会。1988年、「ジュラルミンの都市樹」で第34回角川短歌賞を受賞。1993年「マテシス」で第3回河野愛子賞、2007年「perspective」で第12回若山牧水賞…

穂村弘百首鑑賞・33

「その甘い考え好きよほらみてよ今夜の月はものすごいでぶ」 第2歌集「ドライドライアイス」から。穂村弘お得意の会話体の歌である。この歌の妙味は「甘い考え」という否定されるべきものを「好きよ」とライトに肯定してみせたあとで「今夜の月はものすごい…

現代歌人ファイルその33・松木秀

松木秀は1972年生まれ。札幌学院大学法学部卒業。1998年に「短歌人」に入会し、2001年第46回短歌人新人賞を受賞。第1歌集「5メートルほどの果てしなさ」は2006年に第50回現代歌人協会賞を受賞している。もともと短詩作家としての出発は川柳からであり、歌風…

穂村弘百首鑑賞・32

「腋の下をみせるざんす」と迫りつつキャデラック型チュッパチャップス 自選歌集「ラインマーカーズ」から。穂村弘の歌の中でも今までほとんど引用されたことがないだろう歌を取り上げてみたいなと思いこの歌を選んでみた。あまり取り上げられない理由は簡単…

アークレポート2号完成!

札幌にて集まっている超結社の短歌勉強会「アークの会」で発行している同人誌「アークレポート」の2号が完成いたしました。同人による短歌連作、毎月の歌集研究のまとめ、歌会記などが主なコンテンツです。 特集その1は、「『つきさっぷ』を読む」。樋口智…

現代歌人ファイルその32・大野道夫

大野道夫は1956年生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。大正大学人間学部で教鞭を執る社会学者である。佐佐木信綱の曾孫にあたり、佐佐木幸綱は母の従兄弟。1984年「心の花」入会。1989年、「思想兵・岡井隆の軌跡―短歌と現代・社…

穂村弘百首鑑賞・31

超長期天気予報によれば我が一億年後の誕生日 曇り 自選歌集「ラインマーカーズ」から。もともとこの歌は、高橋源一郎の小説「日本文学盛衰記」の中で石川啄木作の短歌という設定で提供された歌である。 自分が生きているわけもない一億年後の誕生日を知るこ…

文学らじお・ショートソング

http://www.nicovideo.jp/watch/sm6934671 ニコニコ動画にて文学作品の朗読と解説を行っているネットラジオ。枡野浩一「ショートソング」を取り上げている。短歌の部分をどう朗読するのかと聴いてみたところ、ほとんどモノローグの延長線上のような聴こえ方…

現代歌人ファイルその31・干場しおり

干場しおりは1964年生まれ。白百合女子大学文学部国文学科卒業。1984年に「未来」に入会し、河野愛子に師事。1989年に第一歌集「そんなかんじ」を、1993年に第二歌集「天使がきらり」を出している。バブル期の空気を残すキラキラ感覚が散りばめられた、ポッ…

穂村弘百首鑑賞・30

ゆめのなかの母は若くてわたくしは炬燵の中の火星探検 「短歌」2006年1月号『火星探検』から。この一連は母への挽歌であり、穂村弘という歌人の大きなターニングポイントになった作品である。おそらく次に刊行される歌集のハイライトになることと思う。穂村…

現代歌人ファイルその30・高柳蕗子

高柳蕗子は1953年生まれ。明治大学文学部日本文学専攻卒業。1985年「かばん」入会。高柳の短歌はポンポン言葉が飛び出してくるような威勢のよさが特徴であり、決してべたべたした抒情性があるような作風ではない。奇想ともいえる意味不明な世界観が凄まじい…

穂村弘百首鑑賞その29

「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」 第1歌集「シンジケート」から。穂村弘の代表作といえる一首であるが、これが代表とされている所以はまず会話体だということがあげられるだろう。「シンジケート」によくみられ…

現代歌人ファイルその29・吉野裕之

吉野裕之は1961年生まれ。九州大学大学院農学研究科修士課程修了。1986年に「桜狩」、1988年に「個性」に入会。加藤克巳に師事、光栄堯夫に兄事している。歌風としてはライトヴァースとみなせそうなものが目に付く。俵万智が次席、荻原裕幸が最終候補となっ…

穂村弘百首鑑賞・28

夢に来て金の乳首のちからびと清めの塩を撒きにけるかも 自選歌集「ラインマーカーズ」から。「手紙魔まみ」の番外編といえる「手紙魔まみ、イッツ・ア・スモー・ワールド」からの歌である。この一連はタイトル通り「相撲ワールド」であり、なぜか力士が戦場…

現代歌人ファイルその28・兵庫ユカ

兵庫ユカは1976年生まれ。2000年に作歌をはじめ、2003年に「七月の心臓」で第2回歌葉新人賞次席。第1歌集「七月の心臓」は2006年に刊行された。兵庫の歌は都市の中の孤独感に満ち溢れており、穂村弘が「現代の若い世代の心情を象徴した歌」として引き合いに…

穂村弘百首鑑賞・27

ハロー 夜。 ハロー 静かな霜柱。 ハロー カップヌードルの海老たち。 第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。この歌集を代表する一首である。不自然なくらいひたすら優しい気分になって、とにかく何にでも語りかけるという状態が、「まみ」…

渡辺玄英「けるけるとケータイが鳴く」

無数はどこに行くのか 渡辺玄英 『出口のない海』という映画で 若者たちは爆弾になって消えていった ショーワ二十年の海にはどこにも出口がなくて まばたきして六十年すぎると そこには漂白されたスクリーンがひろがり ぼくらには海がない そーりが靖国を参…

現代歌人ファイルその27・小池純代

小池純代は1955年生まれ。立命館大学卒業。1987年に「未来」に入会し岡井隆に師事するが、現在は無所属。松岡正剛の編集学校で講師をしているらしい。「未来」には紀野恵や松原未知子のようにフェティッシュな言葉遊びを愛好する命脈があるが、小池もその流…

穂村弘百首鑑賞・26

水滴のひとつひとつが月の檻レインコートの肩を抱けば 第1歌集「シンジケート」(1990)から。あまたの水滴のそれぞれに月が映っている情景を、月が水滴に閉じ込められているとみなして「月の檻」と表現している。卓抜した言語センスであり、非常に修辞のす…

現代歌人ファイルその26・小笠原和幸

小笠原和幸は1956年生まれ。岩手県立盛岡短期大学法経学部卒業。1984年に「不確カナ記憶」で第27回短歌研究新人賞、1992年に「テネシーワルツ」で第9回早稲田文学新人賞を受賞。ちなみに「テネシーワルツ」は短歌作品である。かつての早稲田文学新人賞は短歌…

穂村弘百首鑑賞・25

鈴なりの黒人消防士がわめく梯子車に肖(に)た婚約指輪 アンソロジー「新星十人」(1998)に寄せられた連作「ピリン系」から。このアンソロジーに収められている作品は、現在のところオリジナル歌集には含まれていない。「シンジケート」の頃から「恋愛が社…

現代歌人ファイルその25・松平修文

松平修文は1945年生まれ。東京藝術大学卒業で本業は日本画家だという。1968年より大野誠夫に師事し、「作風」同人。1984年に退会して以降は無所属である。師の大野誠夫は自己演出性とドラマ性の高いロマネスク的作風で、戦後短歌史でも一際異彩を放つ存在で…

現代歌人ファイルその24・紀野恵

紀野恵は1965年生まれ。「未来」「七曜」所属。早稲田大学第一文学部卒業。1982年に第28回角川短歌賞次席、1983年に第26回短歌研究新人賞次席。当時の紀野はまだ高校生で、衝撃的な歌壇デビューであった。というのも紀野の作風は王朝和歌を思わせる典雅なも…

室生犀星詩集

誰かをさがすために 室生犀星 けふもあなたは 何をさがしにとぼとぼ歩いてゐるのです、 まだ逢つたこともない人なんですが その人にもしかしたら けふ逢へるかと尋ねて歩いてゐるのです、 逢つたこともない人を どうしてあなたは尋ね出せるのです、 顔だつて…

穂村弘百首鑑賞・21

なきながら跳んだ海豚はまっ青な空に頭突きをくらわすつもり 第1歌集「シンジケート」から。初期の穂村作品にしては比較的珍しいつくりといえる歌だろう。おそらくは屋外のイルカショーの叙景なのだろうが、そこから海豚のかなしみに思いをはせてどうしよう…

現代歌人ファイルその23・魚村晋太郎

魚村晋太郎は1965年生まれ。京都大学理学部中退。1996年に「玲瓏」に入会し塚本邦雄に師事。2001年「銀耳」で第44回短歌研究新人賞次席、2002年「空席」で第48回角川短歌賞次席。2004年には第一歌集「銀耳」で第30回現代歌人集会賞を受賞。2007年には第二歌…

現代歌人ファイルその22・飯田有子

飯田有子は1968年生まれ。東京女子大学卒業、共立女子大学大学院修了。「早稲田短歌会」や「まひる野」を経て「かばん」に所属している。第一歌集「林檎貫通式」は2001年に刊行された。飯田はもともと古風な文語短歌を作っていたが、「かばん」ではかなり先…

穂村弘百首鑑賞・19

吐く。ことの 震え。る ことの 泣き。ながらウエイトレスは懺悔。をしない 第三歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。先日いただいた「[sai]」2号にこのような歌があった。 この。ども。る。ちいさ。な。こども。のきらきらの。きら。きらの。…

三好達治「測量船・艸千里」

春の岬 春の岬旅のをはりの鷗どり 浮きつつ遠くなりにけるかも 三好達治の詩集「測量船・艸千里」を読む。叙情的な作風で有名な詩人である。ボードレールの全訳を手がけるなどフランス詩が専門の人だが、短歌・俳句にもかなり造詣が深い。「日まはり」という…

現代歌人ファイルその21・安藤美保

安藤美保は1967年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業。1987年に「心の花」に入会し、1989年には「モザイク」で「心の花」連作20首特等第一席に選ばれた。大学院修士課程在学中だった1991年に、研修旅行中の比叡山にて転落事故死した。24歳だっ…