トナカイ語研究日誌

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一穂ノート・14

14


ユークリッド星座。
同心円をめぐる人・獣・神の、吾れの垂直に、氷触輪廻が軋んでゆく。
終夜、漂石が崩れる。

15


地に砂鉄あり、不断の泉湧く。
また白鳥は発つ!
雲は騰(あが)り、塩こゞり成る、さわけ山河(やまかは)。

 『白鳥』第14章では再び幾何学的世界が立ち現れる。「ユークリッド星座」や「氷触輪廻」は造語であろう。幾何学的世界に現れる人・獣・神の三角形がバランスを保って、同心円として立体世界へとつながっていく。そんな夢想があるのだろう。一穂の特徴は、直線や円で構成された平面的な世界のまま夢を見られることにあるように思う。抽象画のような世界にリアリティを感じることができたのではないか。そしてそれは夜空にまたたく星座を見つめ続けたことに起因するのではないか。闇夜のなかの膨大な光の点の集合に、一穂は人間と獣と神の世界を見ていたのかもしれない。そしてそんなシュールな夢の世界は、「漂石が崩れる」ことによって一瞬にして具体化し、崩壊する。
 かつての未来が現在になり、過去になる。それでもなお未来からの使者たる白鳥はまた飛び立ってゆく。あがりゆく雲、凝る塩、騒ぐ山河。いずれも世界を凝縮させ、彩色し、立体化させている。一穂がこの『白鳥』という長大な詩で描こうとした世界の住人たちは、ひたすらに希望あふれる未来を待ちわびながら厳しい北の日常を生きる故郷の人々であろう。そしてその北の世界のなかでまた孤独を感じていた一穂は、夜空に映る抽象的で鮮やかななイメージの世界で遊び続けていたのだろう。「北十字」という十字架を背負って生きること。詩という夢の世界のなかに生き続けること。その狭間で揺れながら、一穂は神のように大きく翼を広げる白鳥の姿を幻視していたのだろう。