トナカイ語研究日誌

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第2回吉田一穂研究会

 先月より発足した吉田一穂研究会。一穂の地元北海道からその業績を見直してゆくべく始まった勉強会である。第2回である本日は、小樽文学館副館長の玉川薫氏をゲストスピーカーに招いた。玉川氏は福井県出身で、北大文学部を卒業後、東京の出版社勤務を経て開館2年目より小樽文学館に勤務している。今回は1993年に開かれた「吉田一穂展」についての裏話を色々と聞かせていただいた。
 玉川氏の一穂との出会いは学生時代、同級生に一穂ファンがいて二、三篇の詩を読ませてもらったときだという。その時の感想は「格調が高そう」「簡素で、豊かではない」というものだったそうだ。「これで一穂のことを少しわかるようになった」と思ったきっかけは井尻正二編著「詩人吉田一穂の世界」(築地書館)を読んでからのことだという。
 小樽文学館に一穂の資料が集められるようになったのは、嘱託学芸員であった木ノ内洋二という方の尽力によるものだった。彼は稲垣足穂の弟子で、足穂の著作「少年愛の美学」も彼のアイデアだったといってもいいくらい影響を与えた詩人だそうだ。この木ノ内氏も非常に興味深い人物だが、一穂展にあたっては体調不良から関われなかったようである。かわって企画監修者として白羽の矢を立てたのは吉田美和子という盛岡市在住の詩人(一穂と同姓だが縁戚関係はない)。彼女の著作「吉田一穂の世界」(小沢書店)に感銘を受けた玉川氏は手紙を出して監修を依頼。展示の構成や文章といった学芸員のやるような仕事まで含めて全面的に委任したという。
 吉田美和子が文学館報に寄せた文章「花はむらさき」は一穂展監修にまつわる随想であるが、一穂論としても出色である。

 一穂は誰よりも故郷を憎み、故郷を愛した詩人である。みずからふるさとを「この時空に存在しない白鳥古丹(カムイ・コタン)」と呼んで郷愁の原像を詩に昇華した。

 展示の完成にいたるまでの人間模様はとても人間臭く楽しいものであった。また余話として、一穂自身の人間臭いエピソードも披露された。詩集を贈ってくれた若い詩人の目の前で詩集を四つに裂き火にくべて、沸かしたお湯でお茶を差し出したというのだからものすごい。玉川氏の話のうまさもあり、盛会となった。
 なお小樽文学館では現在瀧口修造展の準備を進めているという。先述の木ノ内洋二氏の悲願といえる展覧会だそうである。詩人の吉増剛造も深く関わっている。一穂展に劣らない魅力のある展覧会となりそうである。

吉田一穂の世界

吉田一穂の世界

詩人吉田一穂の世界 (1975年)

詩人吉田一穂の世界 (1975年)