知んないよ昼の世界のことなんか、ウサギの寿命の話はやめて!
第3歌集「手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)」から。「手紙魔まみ、完璧な心の平和」という章からの一首。「まみ」の揺らぎ続ける心理が一貫して描かれ続けている章である。「ウサギ」は「まみ」のペットであるとともに、自画像でもある。「昼の世界」とは人々があくせくと働き続ける「普通の世界」のことだ。そこからはじき出されてしまったまま「夜の世界」に生き続ける「まみ」の姿。一生を愛されて過ごすペットのウサギを抱きしめながら、いつかは誰からも愛されなくなる自分自身の姿を思い浮かべて必死に涙をこらえているのだろう。
完璧な心の平和、ドライアイスに指をつけても平気だったよ
これ以上何かになること禁じられてる、縫いぐるみショーとは違う
同じ一連にあるこれらの歌からしても、「まみ」が非常に高い自立心を持っていることがわかる。しかしその自立心は深い孤独と表裏一体である。誰かの愛玩物ではないという思いが、誰にも頼れないという結論に至っている。「普通の世界」からはじき出された「夜の世界」で、短い「ウサギの寿命」を生きる。ほんのひとときのものであっても誰かの愛を受けなくては生きていけない人間の哀感が、少女的な口語によって見事に表現された一首である。