愛媛県文化振興財団が主催している芝不器男俳句新人賞の第3回受賞者の第1句集である。定価953円と句集にしては安い。非常に個性的な作風の俳人である。
原爆忌楽器を全力で殴る
チューリップ体は土に埋まりけり
暗檻ニ鵜ノ首ノビル十一時
女なんだ証拠はないが信じてくれ
じきに死ぬくらげをどりながら上陸
結果より過程と滝に言へるのか
本来は俳句で収まりきらないようなことを俳句で表現することに大きな意味があるのだろう。そう感じさせるだけの魅力のある句だ。どうしても対比してしまうのは斉藤斎藤の短歌だろう。それは砕けた口語を使用しているということだけの問題ではない。「倫理」というものへの意識が非常に強い点が共通しているからだと思う(句集のタイトルにもそれは表れている)。定型詩という外的なルールを持った世界で、人間を人間たらしめる内在的なルールとしての倫理はいかに機能しうるのか。その問題を追求しているのが、短歌の斉藤斎藤、俳句の御中虫だろう。
僕にはその強さがないし強くなろうともしていない
暗ヒ暗ヒ水羊羹テロリテロリ
歳時記は要らない目も手も無しで書け
グラビアにじじいが葡萄もって微笑むのが笑える
枯野かっこいいぜ俺はこんなに不幸だぜ
混沌混。沌混沌。その先で待つ。
定型を逸脱していたり、新仮名と旧仮名が一冊の中で混合していたり、あるいは厳密に言えば旧仮名が間違っていたり。そういう点すらも計算された作為に思わせるパワーがある。御中虫という人間の中で規定され続けている倫理というルールの前では、文書上のルールなんて無意味に等しいものだ。御中虫の俳句はアナーキーに見えて、実は非常に構築的なのだ。
この句集はページごとに1句組だったり5句組だったり自在に分けられている。そのため読者が読むスピードをある程度作者の側からコントロールすることが可能になっている。読む以上は私のルールに従ってほしいという真っ直ぐなまなざしが届いてくるかのようだ。新時代の始まりを告げているかのような一冊の句集である。
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/%8C%E4%92%86%92%8E/list.html