しろいろは主に「現代詩フォーラム」にて短歌を発表している歌人であり、性別や年齢など詳しいことはわからない(おそらく女性だろうか)。ただ非常に才気のある歌を作っており、注目できる存在である。
「水銀のかたむくほうへ やさしさは時計仕掛けのはやい逃げ足」
「ガソリンを浴びあう遊び たのしいね 「故障中」の紙もガソリンまみれ」
「(わたしから這いだそうとするぬいぐるみ)就活戦線 武器はピアニカ」
「きみもぼくも漂白剤で色褪せてどうしてこんなに散り急ぐ薔薇?」
最新の連作「ばいばい、レトロニカ」からの引用。カッコでくくられた一首ごとにハイテンションな口語文体で綴られた短いストーリーが添えられている。この構成は穂村弘の「シンジケート」を否応なしに連想させられるが、文体や構成を引き継ぎながらも描かれている世界に対する閉塞感はどうしても現代性を帯びてくる。
しましまの正義を装填した銃を抱えて眠る 夜よ明けないで
Tシャツを着替えるように毎日を無造作にいきて沢山失って
間違って指さして、あれは春じゃない、低温火傷の白昼夢だよ、
白線の外側で聞く警笛がとてもきれいで少し目を閉じた
目が覚めたのは君だけださあ早く、首のバーコードをひっぺがせ!
大人って死にぞこないの子どもでしょ?錆びたブランコ軋ませわらう
初期の作品から最近作までを時系列順に並べてみたが、破壊のイメージが目を引く。銃や爆破のイメージもそれに重なる。生ぬるい日常や幸福を拒否し、「子ども」であろうとする姿勢が見て取れる。破壊願望と成熟への拒否が、しろいろの歌のキーワードであろう。
しろいろは短歌だけではなく川柳も発表しているのだが、これが非常に面白い出来になっている。
ビー玉誤飲してやさしくなりたい
注射器のなかで血とソーダが混じっている
歌詞のない歌をカラオケでずっと探す
焼いても焼いても影が消えない
「血管を結ぶ遊び、流行らそうか」
定型からは外れており自由律といっていい川柳であるが、独特の幻想性と残酷さがある。「誤飲」という言葉に象徴されているような「誤っている」という感覚が作品のそこかしらに滲んでいる。
自転車で法定速度はこえられない/次のカーブを鋭く曲がる
高架線/燃える影/冬/閉じた傷/此処から始めるペレストロイカ
ちっぽけな(たとえばコーラのプルトップ)いっかいきりのぼくの裏切り
(長すぎた夢?)こうしゅだいへむかいます(エレベーターの閉[シマル]を連打)
ガードレールは湾曲していく (詩が今日も私の隣になまぬるく在る
さびしい は離断されてて(誘蛾灯)ファミリーマートの緑青白
パーレン(括弧)やスラッシュを用いた表現を多用する。現代詩の影響を感じさせるが、思考の最中に紛れ込んでくるノイズのようなものとして括弧が挿入されている。頭に侵入してくるノイズに悩まされた果ての破壊願望。不思議な残酷さと切なさに満ちている歌である。詳細なプロフィールのないまま描かれる無名の都市風景は、殺伐としているようでどこかほの明るい暖かさがあるように思える。