トナカイ語研究日誌

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突然の訃報

 「未来」の笹井宏之さんが急逝されたという。まだ26歳だった。彼とは歌会仲間であり、尊敬する同世代歌人でもあった。彼の歌はイノセントでピュアな感覚に研ぎ澄まされていて、匿名で提出されても「これは笹井節だ」とわかるほどだった。私は純白な笹井ワールドを愛するとともに、この世界がこれからどう進化していくのかを楽しみにしていた。
 しかし結局その笹井ワールドは水晶の中に閉じ込められたまま永久保存されることになってしまった。彼が短歌界に残せたはずの宝石を考えると、残念でたまらない。中城ふみ子、相良宏、岸上大作、小野茂樹、安藤美保…といった夭折歌人の系譜に笹井宏之の名前も刻まれてゆくのだろう。しかし、伝説ではなく生身の一歌人として、この誰よりも繊細で感受性の強かったひとりの青年の名前を語り継いでいくことが、残された者の使命なのだと思う。笹井さん、安らかにお休みください。

  ふわふわを、つかんだことのかなしみの あれはおそらくしあわせでした  笹井宏之

  ひろげたら羽根がいちまい落ちてきてそれから軽くなったつまさき

  思い出せるかぎりのことを思い出しただ一度だけ日傘をたたむ

  ぼろぼろのアコーディオンになりはててしまった天国行きの幌馬車