トナカイ語研究日誌

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現代歌人ファイルその2・永井祐

 永井祐は1981年生まれで早稲田短歌会出身。2002年「総力戦」で北溟短歌賞次席。現代社会に閉塞感を感じつつもそれを打破しようとする意志がまったくみられない作風で、作者の意図とは別に作品だけ一人歩きして勝手に歌壇の問題児扱いされているような気配です。しかし僕は永井祐こそ同世代で最大の才能を持つ歌人であることを確信しています。

  あの青い電車にもしもぶつかればはね飛ばされたりするんだろうな
  わたしは別におしゃれではなく写メールで地元を撮ったりして暮らしてる
 いずれも物議を醸した歌です。「死」とか「生活」といったものがまるでリアリティを失っていて、面白くもありつまらなくもある毎日が永遠に続いていくような倦怠感ばかりが広がっています。僕はこのような社会への眼差しにものすごく共感を覚えます。それはいってみれば「終わらない日常」の具現化であり、ほんの些細なことであっても世界の一部を肯定しなくては自分を支えきれなくなってしまう社会のサバイバル術なのです。

  200円でおいしいものを手に入れろ 残暑のゆれるところをすすむ
  みそかの渋谷のデニーズの席でずっとさわっている1万円
  1千万円あったらみんな友達にくばるその僕のぼろぼろのカーディガン

  とてつもない日本』を図書カードで買ってビニール袋とかいりません

 永井の歌に頻出する「お金」というモチーフ。おもちゃのようにずっと1万円札をさわっていたり、1千万円あったらみんな友達にくばると言ってみたり、大金を稼ぐことへの執着がまるで見られないことに気付きます。永井が描く自己像は誰がどう見ても下流層の若者です。必死に出世してたくさんのお金を稼ぐという価値観の崩壊した現代で、下流層に固定された若者がどのように社会を見ているか。体制に反抗しようとしても、そのやり方がわからずにただ馴らされてゆく。確かに苦悩しているのに、それを表に出すとまた落ちてゆくばかりだから能天気なふりをする。そういった世代の思考法を乾いたポエジーに託している永井祐は、ささやかでちっぽけながらも紛れのない時代の寵児といえるでしょう。