トナカイ語研究日誌

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穂村弘百首鑑賞・80

  ハイウェイの光のなかを突き進むウルトラマン精子のように

 自選歌集「ラインマーカーズ」から。「ラヴ・ハイウェイ」と題された一連のなかの一首。「ハイウェイ」というモチーフはとても都市的な意味合いをはらんでおり、またきらきらと光まみれの世界である。おそらくは真夜中で、こうこうとしたライトに照らされているハイウェイを走り続けているのだろう。そんな瞬間は、真っ白な光にまみれたチューブの中を移動しているような気持ちになる。その気分を、「ウルトラマン精子のよう」とストレートに表現したところが実に面白い。
 自分が本当はなにか巨大な生物の身体内部を構成する一物質にすぎないのではないか、という妄想は私も小さいころからしていたことがある。その「巨大なもの」を神ととらえるのが宗教なのかもしれないが、光との連想からウルトラマンを持ち出してきたところに穂村弘の技が光る。「光の国」出身のウルトラマンはハイウェイの光のチューブのイメージと見事に符合する。ウルトラマンの体の内部は光にまみれているのかもしれない。
 「精子」であるからには生殖のために卵子に突き進む存在であり、また数え切れないくらい多数の同じ「精子」のライバルを抱える。精子というモチーフをわざわざ持ち出してくるところにセックスのイメージがあるのは明らかだが、自分は生殖能力を持つ無数の生物のひとつでしかないという冷めた意識もみてとれる。それでもなお光にまみれたハイウェイを突き進むことは、どうなったっていいさというようなひたすらに明るい諦めの感情もあるのだろう。おそらくは自嘲的な片笑みを浮かべながら、ハイウェイを疾走しているのだ。